きらきらひかれ

テレビもねえ ラジオもねえ おまえにそれほど興味もねえ

残光

 

 

結局街を作るのは人なのでそこで私と出会う人が私の欲しい街を作るんですよね。生きたい理由と死ねない理由は本当は紙一重で、私は死ぬ瞬間までは言わずとも病院で管に繋がれて思い出す記憶が私を悲しませないように一生懸命生きていたいな。特にメリットもないのに旅をしてジムバッヂを集めて四天王と戦いポケモンマスターになりたがるサトシにふいにシンパシーを覚えながら、中途半端なピカチュウのモノマネをする女への苛立ちを思い出してしまい、ああだめだな、こんなんじゃ可愛く死ねないなと思った。私も誰かの人生のジムリーダー、じゃなかった、走馬灯に出演したいよ。エンドロールの最後の最後の小さい名前でいいから、誰かじゃなくてあなたの人生が終わる時だけでも思い出してほしかった。だからどうでもいいことをたくさん話す。大事な時に限ってどうでもいいことばかり思い出してしまうから、どうでもいいことをたくさん話してどうでもよくない女の子になりたかった。

 

死ぬというのは全てを捨てるということで、捨てるものが多くなるほど手間と時間がかかり躊躇してしまう。だから身軽な若者ほど自殺してしまうのかもしれない。軽くしないと降りられないのに、背負ったものを1つずつ下ろして捨てるのは実家の自室の大掃除に似ていて、比にならないほどずっとずっと苦しい。死ぬのを諦めた大人たちはこの世界に一体何人いるのだろう。21年も生きてしまった。どんなにゴミみたいでも捨てたくない記憶が多すぎる。どんなに汚い部屋だってそこは私の城だった。生きるじゃなくて生き延ばすが似合う人生に理由をくれる人たちのためにまた会う日まで1日1日どうにかやり過ごしたい。

 

街が全て同じに見えて、人がみんなくすんで見えて、どうしようもない生活の中で、光って見えるものは手放しちゃいけない。大事にしたってすり抜けていってしまうかけらがこれ以上ほろほろと崩れていきませんように。新宿と心斎橋の見分けがつかなくなっても新宿を選べますように。東口しか出口が見つからなくなって逃げ切って抜け出して君のところに辿り着けますように。そんなに遠くはないのに遠くぶって、換気の足りないワンルームから1人の夜を捧げている。滑稽に縋り付くような姿勢で撮った可愛いの向こう側をバラさないでいてくれるなら信じてもいいかなと思った。

 

 

痛みは忘れる、希望は霞む。君の代わりに僕は泣けない。目の前にいるその幻みたいな瞬間と綴る言葉が実存的な全てで、君もたぶんきっとそう。3万歩歩いたって東京から出られなくて、どこにいたってどこにもいけないままでここにいたいと思わせてくれる人やものを探しているだけ。街なんて箱で、それでもステータスにこだわってしまうからキラキラの箱の中で浮かれてしまうよ。箔をつければ私もキラキラの光の一つになれるかもしれないという淡い希望が昔の都で鈍く光って君に居場所がバレたらいいのに。

 

私の代わりはいくらでもいるみたいに、この街の代わりはいくらでもある。でも、誰かには私が私じゃないとダメなように、わたしには東京じゃないとダメだった。君じゃないとだめだからここで会うんだよな。これじゃないとダメだと思えるものをかき集めてこれがよかったと思える人生にしたいから、東京で過ごすはずだった夜をふかして、ふやかして、柔らかくして温めて、体ごと滲めば世界に馴染んで明日もやり過ごせるかもしれない。大切にしているものぜんぶ誰にもバレませんように。