きらきらひかれ

テレビもねえ ラジオもねえ おまえにそれほど興味もねえ

2等3席

 

そろばんを7年近くやっていた。四段くらいは取った気がする。引っ越した家の近くにあったそろばん教室がたまたま強豪で、その教室で組んだ団体では都道府県TOP 3くらいにはなったし、好きだった男の子は都道府県で1位になっていた。私もよく頑張っていたと今振り返れば思うけど、私はずっと絶対的だった団体戦の選抜3人に入れない4人目で、その4人目の座を選抜3人のうちの1人に金魚の糞みたいについて回っていた女とずっと怒っていてちびまる子ちゃんの前田さんみたいなケチくさい意地悪な女と奪い合っていた。

 

人生で1番頑張ったことは?と聞かれたらまずは高校受験、その次にそろばんだと答える。わかりやすい戦績はあまりないけど。1番良かった成績が、確か小学校4年生くらいで出た地域のブロック大会の2等3席だ。2等3席、上から5番目、この大会は各席に1人ずつだったのでつまりは5位。なんて中途半端なんだろう。でも当時は嬉しくて仕方がなかった。賞品としてもらった趣味の悪い青い掛け時計は今も実家で時を止めたまま私の部屋の壁にかけられている。とにかくすごく嬉しくて、そのあと他にも山ほど大会に出て、一応都道府県のベスト20にもなって、他に1席に何人も座れるタイプの大会なら2等1席くらいは取った気がするけどこの2等3席だけをずっと覚えている。

 

我ながら中途半端な人生だったなと思う。上から2番目くらいのコミュニティでトップに立っては、1番上のコミュニティの下位よりは上であることを心の隅で誇りに思っていた。3人の泥試合には勝てたって、選抜3人の中にはずっと入れなかった。関関同立でトップって言ったって、京大や阪大には入れなかった。可愛い顔だねって言われたって、顔だけで選ばれることはなかった。補欠の中では強い方、私文の中では賢い方、ブスの中では可愛い方。前置きありきの褒め言葉たちで自己肯定感を育んで、枯らして、根無し草のまま一応花が咲いた。小さくて可愛くてすぐに萎むような花だけど、私はそれを大切にしたいのに。

 

この前20歳になった。年齢なんて関係ないと言う人たちの胸ぐらを掴んで揺さぶってやりたい。めちゃくちゃ関係ある。絶対に関係ある。確かに20歳はまだ若いかもしれないけど、私はレールの上を大暴れしながら生きたいので、年齢めちゃくちゃ関係ある。だってそれがレールだから。脱輪は誰がどう言おうと普通に事故だから、私は絶対にレールからはみ出ずにただ車内で大暴れしたいのだ。だから年齢というのは一生付き纏う。私が自分の手で纏わせている。ただ、この若さの上に胡座をかき、いつか取り返しがつかなくなった時には私も 年齢なんて関係ないよ って言いたくなるんだろうか。言っちゃったら取り返しがつかなくなりそうなので絶対に言いたくない。

 

もう正しい道を正しく歩むことはできないだろうなと思う。正しく努力して、正しく選ばれて、正しく咲くことはこの根無し草にはもうきっとできない。だから正しい道を行くんじゃなくて、いっそ脱輪してやろうか。振り切る方向は別にどっちでもいいんじゃないか。傾いたまま止まった列車の上で、一等まじめに生きてみたら、レールの上で大暴れしていたのとは似て非ずる世界が見えるのではないかと、今日もパソコンの前で夢想する。英語の先生からteamsの通知が来た。この先生だるいんだよな、と思いながらDeepL片手に四択問題を間違えずに答える。またレールの上を確実に、そしてゆっくりと、2等3席のその先を目指して進んだ。神様、どうかいつかきちんと全てが壊れますように。